門貴族と労人  - シトラス家 -             _
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私より背の低かった坊ちゃまが、私の背を追い越したのはいつだったろう?
弟が姉の背を追うようにではなく、
一人の紳士が一人の女性を扱うように私に接し始めたのはいつだったろう?
いえ、それは確か相当前のことだった気もするけれど。

坊ちゃまはいつまで経っても私を頼ってばかり。
それでも彼の背がときどきとても遠く見えることがあるのは何故だろう?

声をかければいつものように笑って応えるのだろう。
いつもと同じ口説き文句もひとつやふたつ添えて。

だけど今は、暫く大人になった彼の背を見ていよう、と思う。

  †

「………先程からずっと僕の背を見ているようだけれど、どうしたんだいリッセ?」
「あら、気づいてらしたんですか坊ちゃま」
「僕が女性の眼差しに気づかないわけがないだろう?」
「あらあら、随分軟派な紳士ですこと、ね。できればもう暫く黙ってていただきたかったものですけど」
「おや、それは僕に見とれていたということかい?」
「坊ちゃまも黙っていればいい男だってことです」
「黙っていれば…か。ちょっと厳しいね」
「坊ちゃまがそのお喋りをやめないかぎり坊ちゃまはいつまでもいつまでもいつまでもいつまでも三流男ですね」
「うっ」

+

リッセ23歳、アレク20歳くらいを想定…
「いやあ大きくなったものだわ」くらいに思ってます。
リッセが初めてアレクに会ったのはアレクが7歳の時ですので


  †

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「フィロメーラ、待たせたな。長かっただろう?」
「いいえ、そんなことは。リッセ様ともお話させていただいておりましたし」
「そうか、それなら後で礼を言わなければいけないな。
 …さて、どうする? 食事に行くにはまだ早いが…

 …フィロメーラ?」

「…あの、アレク様…わ、私は…」
「ああ、我が親愛なる兄上には勿体無いほどだ…貴女はこれほどまでに可憐で美しいのに、粗暴な兄上と居てはその可憐な花も乱暴に摘み取られてしまうだけだ。
 ああ、こんなことを言うのは愚かしいことかもしれない、しかしフィロメーラ嬢、兄上よりもこの僕と」
 何 し て る ア レ ク 
「ああ粗暴な兄上よ、剣を抜き放ってこの可愛い弟に何をする気ですか」
「誰が粗暴だこの軟派男めが! 私の許婚に何をする!」
「ああ、親愛なる兄上よ。いきり立っても何も始まりません、もう少し冷静に」
 誰 の せ い だ と … ! 

  †

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「あぁ…またぼっちゃま方が騒ぎを?
  ……ジークヴァルト様、私もうこのように面倒な仕事をしたくはないのですが。…そうですか。私しかいないのですか。それは困ったことですね。ジークヴァル ト様はいつもいつもフィロメーラ様と愛の逃避行でいつもご兄弟からは目を逸らしてらっしゃいますものね。私の苦労なんてわかりませんよね。いえ、分かるか らこそ逃げるのですよね。私としたことが、うふふ」

「…す…すまない、リッセ…」
「あら、よろしいんですよ。私が全部引き受ければいいんですよね。ふふ、楽しい時間を過ごしてきて下さいませ。 こ の 馬 鹿 当 主
「Σ」

徐々に毒を吐く女・リッセ。
苦労人ゆえの恨みつらみ

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「……………ッ」


「どうしたんだ、あいつ?」
「ん?」
「レナートお前なんか言ったろ?」
「俺が? …いや、俺は別に」
「うーそだー。お前と話した直後だぞ、ああなったの」
「ああなった、って、どうなったんだよ?」
「まっかっか」
「……覚えがないぞ」
「…あ。もしかしてお前カーラのこと誉めた?」
「ああ、それくらいなら。"そうやってちゃんとした格好するとなかなか可愛いじゃないか"って」
「この天然女たらし。それだよ、それぇ」
「んなッ」

シュリとレナートの会話


  †

アレク兄とイリスの会話

「王子は、寂しがりやなんです。プライドとか、そういうのでひた隠しにしてるけれど、寂しがりやなんです」
「ふむ、僕にはそうは見えないがね。しかし、ずっと彼といた君が言うのなら、それは正しいんだろうな、イリス嬢」
「…ええ、たぶん。…王子は、王族です。まわりにたくさん人がいても、心からの友人というものがあまりいなかったように思えます。多くの人がいるのに満たされない孤独感を感じていたように見えて――
 王子は、自分が他人に干渉されることが嫌いなんだと思い込むことで、相手が自分の心まで干渉しようとしないことを誤魔化そうとしていたのかもしれません。ずっと、そうしていて、心を開くことが苦手になったんじゃないかと、…そう思えて。
 わたしがいくら道化を演じても、あの方の孤独感を癒すことはできないんじゃないかって、…そう思うと、すこし、辛いです」
「…ふむ、そうかな?」
「…何がですか?」
「僕にはね、イリス嬢。彼が君といることで多少なりとも孤独感が癒されているように見えるがね。そして、心を開くことにも慣れてきているのではないかな」
「…そう…ですか?」
「彼は君に対して優しい。気付かないのかい?」
「…でもそれは、同郷の出ですし」
「まあ、そういうことかもしれない。君が、本当の彼を知っているから――彼は安心できる」
「……だと、いいんですけど…でも、わたし」
「イリス嬢、君はね、考えすぎている。あまり考えすぎてはいけないよ。君が全てを背負おうと思っては駄目だ」
「…」
「君こそ心を開くべきだと思うがね、イリス嬢。君が全てを背負おうと思ってはいけないし、君が全てを背負えるとも思ってはいけない。君は、まだ小さな少女だ」
「…わかって、ます」
「君が全てを背負うことで誰が救われる? それぞれが成長しなければならないのに、皆の苦難を君が全て背負うことで皆の成長を止めることが君の望みかい? 違うだろう? …君は、それでいいのかい?」
「…いえ…それは、好ましくないことです…」
「そうだね。…他人を大切にする君はとてもいい子だ。けれど、その他人にどう接するか考えるあまりに他人の性格を"こうだ"と決めてもいけない。人は日々変わるものだ。日々のその人を見つめてやってほしい」
「…そうですね。わたし、…わたしが一番成長してないのかもしれませんね。わたし、まだ王子をちいさな王子のままに考えてるかもしれない」
「皆が発展途上だよ。君は悩みすぎて、いけないね」
「いつからでしょうね、昔はのんきだったのになあ…」
「そう、君もまた変わっているのだから当たり前さ。…考えることはいいことだが、君自身を潰してしまわないようにするんだよ」
「…はい。有難う御座います」
「…吐き出したければ僕のところに来ればいいさ。僕が君の居場所になろう」
「…? いきなりどうしたんですか」
「君は仲間たちのところに戻ったらまた考えすぎてしまいそうだから」
「うーん、否定できません」
「だったら大人の僕が君と話をしようじゃないかと、まあ、そういう話だよ」
「…うーん」
「…悩むところ、かい?」
「だってアレクさん、ナンパ師じゃないですか」
「ははは、…大丈夫、これはナンパじゃないよ。妹みたいに可愛いイリス嬢にお節介を焼いてるだけだ」
「……アレクさんって、不思議ですねえ」
「ん? なんだい」
「いつも女の人ナンパしてばっかりなのに、こういうことも言うんですから」
「人を表面でとらえてはいけないよ、イリス嬢」
「ええ、わかってます」