今日も彼女は


「……うえー」
 めそめそめそめそ泣いている。
「どうしてかなぁあたし、いつもいつも迷惑ばっかかけちゃってーうえぇ」
 ひとりでぶつぶつ泣き言言いながら、めそめそ泣いている。
 正直うっとおしい。
「ねぇクルクスくん、男のひとってこういうのイヤかなあ。あたしいっつもレナートさんに迷惑かけちゃってるし、ううう」
 彼女は自分のベッドの上でぬいぐるみを抱いてうだうだ言っている。
 なぜか彼女の周囲にはぬいぐるみまみれで、彼女はむしろぬいぐるみに埋まっているようにも見えた。
 僕は読んでいた本から目を離して、一言だけ言った。「イヤだね」
「…………クルクスくんのいじわる」
 拗ねたように彼女は僕を睨みつける。
「訊かれたから答えたまでだよ」また本に目を戻して、僕は言う。「少なくとも僕は迷惑に思うね」
「…クルクスくんに訊いたあたしが間違いだった」
 訊いておいてよく言うよ。
 軽く肩を竦めて、もう彼女との会話は終わらせたつもりで本を読み始めた。
 彼女はすぐに落ち込んでは部屋にひきこもってぬいぐるみに埋もれてめそめそ泣いている。
 僕は女部屋に入り浸っているのだが、この彼女の泣き虫には参った。ひとりでめそめそしててくれるぶんにはまったく構わないが、いちいち意見を求めてくるのは困る。
「…大体、どうしてクルクスくんここにいるの? クルクスくん男の子じゃない一応。男部屋いかないの?」
 まだ話は終わらないのか。
 わざわざ新しい話題を出してこなくともよいだろうに。
 僕は嘆息した。
「一応は余計だよ。……男部屋なんていられると思う?」
「どうして?」
「一度行ってご覧。君の兄さんが意中の相手といちゃついてるのが見れるから」
「………あぁ」
 納得したように彼女は呟いた。
「しっかし別に恋人同士でもないのによくああもイチャイチャするもんだよね」
「……うらやましいなあ、お兄ちゃん」
 羨ましいのか。
 またうじうじしだす彼女に、嘆息した。さっきよりも深く。
「まったく、よく分からないね。君もあいつも」
「クルクスくんはこういうことないの? 好きな女の子と仲良くなりたいとか」
「恋愛に興味はないよ。そもそも人と深く関わるのもめんどくさい」
「…ほんとに王子さまなのかなあこの人」
「さあね」
 国が滅んで3年になる。
 王族のプライドって何だ?
 それは一番最初の女装のときから脆くも崩れ去ったような気がする。
「並みの王子なら女装して女部屋で読書はしてないだろうね」
「まあそれはね」
 僕は本のページを少し戻した。
 まったく会話しながらの読書というものは内容が中に入ってこなくて困る。字面だけ目で追って、意味が頭に入ってこないのだ。
「ていうかもう迷惑だから黙ってくれない」
「…クルクスくんのけち」
「ああ結構だね」

 それでも彼女のムダ話は容赦なく僕に浴びせられるのだった、と。
 もういい加減コイツ黙らせてほしい誰か。

 今日も彼女はめそめそ泣く。

王子とメイアの日常。笑